次の風に吹かれ

次の風に吹かれ

「そういえば、私、次にやってみたいことができて」

「なんだかわくわくしていると思ったら、そういうことだったんだね」

「あら、あなたにはお見通しなの?何をしようと思ってるとか」

「いや、そこまでは。一体なにを計画してるのかな」

「今は言えないの。自分で実験してみてからにしようと思って。ただ一つ言えることは、今までと違うこと。今までと違う世界を見てみたい」

「へえ。今までと同じところで満足していた君が?珍しい」

「あなたもなんだかわくわくしてきた?」

「うん。俄然わくわくさ、君が楽しそうだと特に」

「俄然わくわく……ふふ。そういう使い方って合ってるのかしら」

そっと笑みを浮かべる千歳に、千迅もつられて笑う。

「これをしたら、昔の自分と繋がれるかもしれない。目に見えない存在と繋がれるかもしれない。……少し怖いけど、やってみたい」

一度失った、そういう記憶を思い出すのが怖い。

そういう気持ちを千迅は感じ取っていた。

「……もし、そうなったら、もっと君と」

「うん?」

「いいや、なんでもない。きっと、今よりもっと楽しくなるさ。ちょっとした冒険だね。小舟で漕ぎ出して、ふたりでさ」

「もし目に見えない存在と繋がれるなら、ふたりだけってわけにはいかないわ」

「あれ。それなら今のままでよくないか」

「ふふ。だめよ。もう決めたの。でも、まあ。あなたと一緒にいるのは変わらないけれど」

「それなら、いいか」

空気が澄んだ静かな夜に、ふたりの笑い声が響き、新たな次の風が吹き始めていた。