
可愛らしく舞う紅葉を地面に落ちる前に捕まえることができたら、
願い事をすると、それが叶うという。
千迅はすっと手に入れた紅葉を見て心でやさしく願う。
「あなたすごいのね。私はこういうの苦手で……」
千歳は空を見上げてため息をつく。
千迅はそれを横目で見ながらさっと紅葉を手放した。
願い事を叶える時の基本だ。何かを願って、すぐに手放す、忘れてしまう。
すると叶うスピードは早くなる。それを知っているからこそ、千迅はすぐに手放せた。
「君はね、自分から捕まえる必要はないのさ。目の前に降ってきたものをそのまま、ほら」
ふたたびキャッチする千迅に、千歳はまた息をついた。
「私だって捕まえて、願い事したいもの。あなたは何を願ったの?」
「ふふ、内緒」
そしてまた、その紅葉を惜しげもなく手放す。
「君の願いは?」
「捕まえて願い事ができたら教えるわ」
「夜が明けないといいけど」
「もう!意地悪なこと言って」
千歳は不満そうに彼を見た。彼女の感情の表し方は直球で、彼にとっては心地良い。
そして、彼はふとそれに気づく。
「君は捕まえなくても手に入れてるみたいだ。君の幸運を」
千歳は周囲を見渡してなんのことかと、瞬くが、
千迅が髪にそっと手を滑らせた。
「さあ、願い事をして。君の髪についてたんだから」
「でもとったのはあなたよ……」
「いいから」
彼女は躊躇いがちにその紅葉を受け取り、瞳を閉じた。
ふうと息をはいて、風にのせて手放す。
その様子を千迅はじっと見つめている。
「何を願ったの?」
「内緒」
「あ。そういうのは狡いぞ」
「あなた。私の願いを聞きたいから手に取れるようにしたんでしょ。その手には乗らないわ」
「素直じゃないなあ。いいさ、だったら私の願いを教えよう」
その言葉は、もうすぐ近づく冬の風に流れていく。
きっとそれは、お互いに同じ願いで、
後から千歳がそれを口にするのも、なんとなく恥ずかしく
先に言えばよかったわ、と。
それを面白がって笑い声をたてる彼の、なんと嬉しそうなこと。