
「あなた、もしかして私を試してるの?」
涼しい風が髪を撫でて、百緑の布を揺らしている。
「貴女を試している?まさか。そのようなことは」
「本当に?」
いつもの調子で話し始めた千風を、千珠が遮る。
「わたし、もう過去を引きずったりしない。それくらい気付くわよ。分かっててあなたを見てた。……あなたもわたしと同じ傷を負ってるかもしれないと」
別の道筋を辿っていたはずなのに、いつの間にかきっと同じ痛みを感じていた、そのことに急に気付く。
「ええ。私も、素直に喜んでいただける方を探していました。何度やっても咲かない花を咲かせようとして空回り。道化の役を演じ切るのも疲れ果て。……そうしていたところに、ある日。あなたが現れた」
惑う手をどう、変化させるものかと想いを巡らしていたところで、彼女がそっと。
「何もしなくていいわ。今は」
彼にとって、休息の扉が開いた瞬間だった。
「―――私の負けですね。あなたの粘り勝ちですよ。さあどうぞ」
と、千珠がほっと息をついたのもつかの間、最後の力を振り絞って小さな花をその手に残した。
「もう。……ふふ。あなたって本当に。仕方のない龍だわ」
眠れる龍。ここに在り。
彼女の肩口に身を預けて、彼は深く深く眠りについた。