
「私ね、どうして自分がこんなに豊かに暮らせてるのか、ずっと気付かなかったの」
彼女が、こちらに視線を映した。
「でもある時分かったのよ。あなたのおかげだって」
「私の?」
「ううん。あなたの」
なぜ否定するのか、よく分からないが、ふと、、
「もしかして、昔の俺?」
「そう。昔のあなた。今のあなたとそう変わらないけど」
「そうかな、俺から見たらけっこう変わってると思うけど」
「本質的には変わらないのよ」
彼女はにっこりと微笑む。
そして、私たちも。と続けた
「だからね、もしかして、と思って。あなたが、もっと豊かに暮らしたい、もっとおにぎりをたくさん食べたい、て思ってくれたから。私が豊かに、お米をいただくことができてる。過去のあなたが願ってくれたから、今の私が生きている」
彼女の心の中に、暖かいものを感じて、それに自分がそっと触れたような気がした。
確かに俺は、ずっと何かを追い求めていた
けど、それはどこにも見つからなくて、途方に暮れていた。見つかったと思っても、また違う。
心が違うと叫んでる
ある時、もう何もないかもしれない、と思った時に気づいた。
ああ、ずっとこの手の中にあったんだ
全てはここに。
そして君とともに。
同じ魂の中心を生きてる。
「いつどんな時でも、あなたが生きて願ってくれたから、今の私がいる。それってとても素敵なことよね」
俺はじっと彼女の言葉に耳を傾けていた。
その言葉ひとつひとつ。
大切なたからものだ。
「私もずっと、分からなかったから。ずっと探してた。でも、結局、答えは近くにあったの。すごくすごく近くに」
彼女が俺の手に手を重ねた。
「あなたのおかげよ。ありがとう」
その笑みを、愛しく見つめながら
愛しい女の手の甲に口づける。
「ひゃ、ちょっと……!」
どぎまぎした彼女の顔を、面白いと悪戯ぽい笑みを浮かべて眺めた
「君の心が美し過ぎて眩しいんだ」
だから、つい茶化してしまいたくなるけど、
俺は心から、彼女の感謝を受けとめた。