幾千の星々に願いを込めて。
ふと宴から離れたところに、夜空を愛おしい気に見つめた者がひとり。
「何を見上げている?」
それをまた眺めていた紺の衣の者が、穏やかに声をかけた。
声音から男だと分かる。対して夜空を見上げていた者は、
「あなたにそれを言う必要が?」
じっと、男を見て放った者の声は女である。
「俺も憎まれたものだ。彼女には必要だったからそうしたまで」
「私より彼女がそう思っているのかもしれないわよ。私とここにいて、彼女の前に姿を現さないなんておかしいことだって分かるはず」
女は男に穏やかな笑みを向けているが、言葉の端々から朿が見える。
この場にいない、その対象に関して二人は話しているのだろうか。
「それは君のわがままだろう。俺は俺が決めたことに従う。それに彼女は俺がいなくても楽しそうじゃないか」
「そうね。あなたがいないことで、喜んでいる者もいるのも確か。でも、女にとって最初に心を向けた男は特別なのよ」
「それで?君はそんな俺に嫉妬してるのか?」
男の瞳が鋭く女を射抜いた。
女は、ため息交じりに呟く。
「だったら私だって私が決めたことに従うわ。後で文句言っても知らないから」
「無駄だ。君がそうしたところで俺は動かない」
「あなたには期待していない、私は彼女の幸せだけを求めているわ。そして彼女の本当に大事に想っている者を見極める」
すれ違いに歩き始めた女に、男はその背をじっと眺めることしかできなかった。