あの時見えなかったものが、だんだんと鮮明に。
この青い瞳できっとそれを見据えてとらえたい。
「幼いころ、私の居場所はどこにもないと思っていたけど……」
「そんな風に思っていたのか?」
「ええ。あなたはそう思ったことはない?」
「まあ、俺の居場所は無理矢理陣取っている自覚はある」
「あら、ふふふ。あなたのそういうところが好きよ」
「なにかな。それは」
千迅は、少しムッとしている。心の奥の焦燥感を悟らせぬように。千歳のこういうところが彼にとっては、困り事である。
「自分の気持ちに正直なところ。もっと見せてくれたらいいのに」
「俺は今でも十分見せてると思うんだが」
「そう?ならいいけど」
ふと、千迅が千歳の表情を盗み見た。彼女は、どこ吹く風で、穏やかだ。
ああ、君がそんな風になんでもないようにしているのが、自分の心を凪の状態にしてくれる。
「千歳」
バッと彼女が彼を振り向く。彼女にしては珍しい反応だ。久しく名前を呼ばれていなかった故に。
「今は、寂しくないか」
あの時の、彼の人の、表情と、千迅の今の顔に重なって、千歳の瞳が一瞬。
「うん」
いつもは大人びた君の、一時だけの少女の顔。