「それで、君はどうしたい」
濁流に呑まれそうになっても、きっと心は真っ直ぐに。
そう、やりたいことは決まってる。随分前から心に決めていた。
「過去に引っ張られてはいけないと分かっているけれど」
「それでいいのさ。だからほんとにやりたいことがはっきり分かるだろう」
仮にやりたいことだけやっていても迷うこともある。
自分が今やっていることが本当に自分がやりたいことなのかと。
本当に、心から、魂からやりたいことなら、きっと苦しくならない。途中で。
心に違和感など感じないはずなんだ。それでも手放せない時もある。
だったら、自分の気のすむまで進むまで。
駄目なら自分の心が変えたいと願うはず。
「変えたいなら手を貸すよ」
彼は彼女の髪をさらりと手に滑らせた。
しかし彼女の髪は、するりとすり抜ける。
「いいえ。自分でやってみるわ。本当に駄目な時、あなたの手を貸して」
「……仰せのままに」
一抹の寂しさも感じていたが、それでも彼の笑みは消えずに絶えずそこにいた。
それが彼女の望みなら。
たとえその時が来ないと、分かっていたとしても、傍らにいられるだけで十分だと。
意外と繊細な彼の心は、彼女の胸に届いていると。
仄かな灯りに期待を寄せながら。