桜の花びらが舞い散る夜更けに。
いつか見た光景だと、心が揺れ動く。
「言っただろう。黒龍は悪いものじゃないと」
「ええ」
彼女は彼の言葉を反芻して昔を思い返していた。黒龍のことだけでなく、
夢見ていた、私がずっと貫きたい思いが、あなたはしっかり肯定してくれる。
「紅葉もいいけれど、夜桜もいい」
男は、暗闇に爛々と咲き誇る桜を見上げた。
「こうしていると、普段考えていた何もかもがちっぽけなものに思える」
「でも。私はこうしていてもまだ迷っているわ。覚悟ができていないかも。そうして、あなたにまた……」
ふとよぎる不安と、忘れたい思い。
彼は二三度瞬き、彼女を見つめた。その顔はまるで普段とは打って変わって子供のようだ。
「君が決めていい。今どういう思いを抱こうと。それは君のものだ。誰にも支配できない」
二人の外衣が風にそよそよと揺れていく。
「なら、今だけは」
この瞬間を、あなたと。