「人間界の龍神と人の物語は、女性を嫁取りするというお話が多いのね」
白羽織の娘、霙が興味津々といった風に楓を見つめた。
「ええ。その他にも、人から龍になった話も有名ね。人から龍になった者同士で婚姻を結ぶことも」
「まあ……素敵だわ。でも、男性を嫁取りする龍の女性は聞きませんわね」
霙は少し物足りない様子で考え込んでいる。
誰か心に決めた人間でもいるのだろうか、しかし、彼女には……
「雨の君がこれを聞いたら勘ぐってしまいそうね」
私の一言に目を瞬いていたが、聡明な彼女は何かに思い至ると真白い頬を紅潮させた。
「楓は意地悪ね……」
「ふふふ。婿取りするお話はあまり聞いたことがないわね。私が見落としているだけで、あるかもしれないけれど……異国が舞台であれば以前、白蛇の女性が人に恋した話を聞いたことはあるわ」
「そう……」
生返事の彼女はこうなると、しばらく自分の世界から帰ってこない。
利発的な彼女が何に思いを巡らしているのか、気になるところではあるが、ここはそっとしておこう。
しかし、急にふとある物語が思い起こされて、黙ってなどいられなかった。自分の興味のあることはついつい喋ってしまう。
「そういえば、顔がいいお坊さんに恋をして追いかけた末に大蛇になった娘のお話を思い出した。転生して蛇の夫婦になり、供養してもらって無事成仏できたそうよ」
「蛇の夫婦なんて素敵だわ……成仏できないままは嫌だけれど」
「あなただってそのうち、龍の夫婦になれるわよ。二人が望めばすぐにでも」
霙はまた恥ずかしいそうに俯き、袖で口元で覆った。
その様子が愛おしく、自身の龍神の幸せを願わずにはいられない。
ふと見上げて目に入る……色鮮やかな紅葉に、濡れた雪が映えて美しく見えた。