可愛らしい少女の手は、桃の花びらのように繊細で、
そっと添えるだけでも躊躇いをもってしまいそうだ。
「まあ。急にどうなさったの」
彼女は純真な瞳を大きく見開いて、こちらを不思議そうに見た。
「ただ自分の心に従っただけさ」
こうして膝をついて彼女の手を取ると、少女を相手にしていたはずが、いつの間にやら年頃の娘に見えて
人知れず出過ぎた自身の心持ちを諌める。
「ところで、君のほかにも龍の娘がいたと思うんだが……」
昔、会った風のような彼女を忘れられずにいた俺は、つい訊ねた。
「どのお姉さまのこと?」
「何といえばいいのか……風のように現れて、要件を言って去ってしまった。はしっこく、凛々しい龍」
見るからに、彼女はそうであった。桃とは違う雰囲気を漂わせていたことを覚えている。
「ああ、それはきっと……」
彼女は嬉々としてその龍について話し始めた。
一通り話し終えた後で、彼女は得意気になり俺に向き直る。
「そこまでお気に召していらっしゃるなら、私からこちらに来ていただけるようお願いいたしましょう」
「いや別に気に入ったという程でもないが……」
意外な彼女の反応に少し拍子抜けした。
否、だいぶ……だ。多少は妬いてくれるものかと期待していたが、見事に打ち砕かれた。
やはりこの少女は真白い純粋な心を持っている。桃の名にふさわしい。
こうして彼女の心を確かめるなどと、自身の下心にため息を吐いた。
「まあ、そのうち。今は君がいてくれる。それだけでいい」
「そのうち……」
彼女は今度は少し肩を落としていた。それほどまでに会って欲しいのか、俺の言葉は未だ少女の君には届かない……
「分かった、じゃあ呼んできてくれ、その愛しの姉龍さまとやらを」
半ばヤケになる俺とは裏腹に、彼女はパッと目を輝かせた。
「ええ、ぜひ。きっと風海さまもお気に召しましてよ」
本当は昔の龍の娘のことなど、あまり気にも留めていないのだが。
目の前の少女の喜ぶ笑顔が見れるならば、良しとしよう。