君の笑顔が見られるならば

君の笑顔が見られるならば

可愛らしい少女の手は、桃の花びらのように繊細で、

そっと添えるだけでも躊躇いをもってしまいそうだ。

「まあ。急にどうなさったの」

彼女は純真な瞳を大きく見開いて、こちらを不思議そうに見た。

「ただ自分の心に従っただけさ」

こうして膝をついて彼女の手を取ると、少女を相手にしていたはずが、いつの間にやら年頃の娘に見えて

人知れず出過ぎた自身の心持ちを諌める。

「ところで、君のほかにも龍の娘がいたと思うんだが……」

昔、会った風のような彼女を忘れられずにいた俺は、つい訊ねた。

「どのお姉さまのこと?」

「何といえばいいのか……風のように現れて、要件を言って去ってしまった。はしっこく、凛々しい龍」

見るからに、彼女はそうであった。桃とは違う雰囲気を漂わせていたことを覚えている。

「ああ、それはきっと……」

彼女は嬉々としてその龍について話し始めた。

一通り話し終えた後で、彼女は得意気になり俺に向き直る。

「そこまでお気に召していらっしゃるなら、私からこちらに来ていただけるようお願いいたしましょう」

「いや別に気に入ったという程でもないが……」

意外な彼女の反応に少し拍子抜けした。

否、だいぶ……だ。多少は妬いてくれるものかと期待していたが、見事に打ち砕かれた。

やはりこの少女は真白い純粋な心を持っている。桃の名にふさわしい。

こうして彼女の心を確かめるなどと、自身の下心にため息を吐いた。

「まあ、そのうち。今は君がいてくれる。それだけでいい」

「そのうち……」

彼女は今度は少し肩を落としていた。それほどまでに会って欲しいのか、俺の言葉は未だ少女の君には届かない……

「分かった、じゃあ呼んできてくれ、その愛しの姉龍さまとやらを」

半ばヤケになる俺とは裏腹に、彼女はパッと目を輝かせた。

「ええ、ぜひ。きっと風海さまもお気に召しましてよ」

本当は昔の龍の娘のことなど、あまり気にも留めていないのだが。

目の前の少女の喜ぶ笑顔が見れるならば、良しとしよう。