几帳の奥と向こう側

几帳の奥と向こう側

ゆらめく几帳の奥でひそやかに交わされる言葉には

敢えてここで明かす事もなかろうかと、躊躇いが生まれるほどの甘やかさ。

二人の中では、白を黒、黒を白だと……言いかねないような、心を通わせた様子である。

「何をお考えに?」

「いいえ、何も。ただじっとこうしていると……」

微かに聴こえてくる、几帳の向こうから、賑やかな声が近づいてくるのを、

彼は

「ふーーーー」

深い、誠に深いため息を吐いた。

「まったく、こういう時ばかりあの者らは」

男はやれやれといった様子でいたのを、女は面白がり、羽織の袖を口元にやった。

「私たちも参りましょう」

羽織を着直した彼と彼女は、何事もなかったかのように賑やかな明かりの元へ歩いていった。