「ま、そう堅苦しく考えるなって。ただ思考を止めりゃいい」
こちらもまた難しいことをさらっと言ってのける。
「いや、止めると言うよりも……何か他の事に没頭してみな。その間に叶っちまうから」
「どうしても気にしてしまうのです。そのことが頭から離れない」
「だったら悩み抜け。いっそのこと」
突拍子もないことだ。
「でもそしたら叶わないのでしょう。ずっとこのまま」
「あんたが悩みたいんだろ。だから気になる。それを解きたいなら、紙に書いてけ。その悩みをズラズラ書いていけば何か気付くかもしれないぜ。今まで少しも気付かなかった、自分の新たな一面に出会えるチャンスだ」
あの人が現れないのも、何か大きな理由があるのだと彼は言う。
「陰極まれば陽となるってな。ま、試してみろよ」
「試したところで何も変わらないのでは……」
「うだうだ言ってねえで、さっさとやる!何かと言い訳つけて試そうとしないのはもったいねえぞ。聞いたことは素直に実行してみる。ちょっとでも心に引っかかったなら尚更だ」
彼はそう言って紙と筆を目前に顕現した。
「そうやって悩み抜けば、やがて辿り着けるさ。頭が冴えてハッキリする。そのうち叶わなくてもよくなるかもな」
それでは困る、と思った瞬間、ああこれか。と気付く。
私はそれがないとダメだと強烈に頭に刻み込んでいた。
「どんどんむいてけ。その分だけ近づける。ある程度いったらほっとけば勝手にむけてくぜ」
二人が言われることは高度だが、的を射ていた。
やはり、今までの経験のなせる業かと、今さらながら驚嘆する。
出会えるだろうか。
心で一息吐いたところで見上げた空には、
繊月が浮かんでいた。